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大熊町の美しい山を眺めながらパーマカルチャーを実現します

大熊町の美しい山を眺めながらパーマカルチャーを実現します

県内在住者にとってはすっかり有名人かもしれない。もしくは彼女が描くキャラクターたちはどこかで目にしたことがあるかもしれない。ブケ・南口・エミリーさん、フランスはブルターニュ地方出身のイラストレーターだ。この春(2023年現在)農家を志して会津若松から大熊町へと移り住んだ。「素敵な観光農園をつくる」。そんな彼女の夢とは。

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美しい自然、優しい人に心が奪われました

まだ収穫どころか苗木がようやく根を張ろうとしている状況ながら、フランスからやってきた一人の女性が、土のついた手で嬉しそうに未来を語る姿はすでにちょっとしたニュースとなっていた。福島民報、福島民友新聞などの地元新聞から、福島中央テレビニュースなど複数メディアが彼女を取り上げた。とはいえ、ニュースになるにはそれなりの伏線がある。

日本に移り住んで12年になる。日本のアニメーションや友人を通じて日本を知るようになった。はじめて日本を訪れたのは2008年。2011年に東京に居を移してからは東京・横浜で英語とフランス語の語学教師として勤務していた。福島には2018年夏に最初に訪れた。語学教室に通う生徒のひとりの勧めがきっかけだったそうだが、本人が「美しい自然、優しい人に心が奪われました」というように、最初の訪問時からすっかり福島に魅了されてしまったそう。震災の爪痕に心は痛んだ。ただそれ以上に人と自然に魅入られたそうだ。結局2021年2月に会津若松から福島での生活を始めることに。

自身が運営する「メリエマリス(https://www.melietmalice.com/)」というサイトに詳しい心境変化が記されているが、当初はフランス語を勉強するためにスタートさせたサイトは、やがて自身が描くイラストレーションの発表の場という役割を経て、いまでは「はじめて見た時に恋してしまった」と話す赤べこの家族や双葉だるまのキャラクターたちとともに、自身の活動報告の場となっている。同時に当該サイトでは故郷のフランス人に2011年以降の福島をもっと知ってもらおうとフランス語による福島の魅力訴求から、日本の原子力規制委員会による24時間体制の放射線量チェックの実態までを紹介している。

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エミリーさんが描くキャラクターのひとつ「双葉だるまちゃん」と自身が運営するホームページ「メリエマリス(https://www.melietmalice.com/)」

まだ始まったばかりの彼女の挑戦がニュースになる理由

罹災以降、世界中から数えきれないほどの外国人が福島を訪れてくれたはずだが、彼女ほどの情熱をもって福島に住み、発信してくれる人はそういなかったのではないか。それが彼女の一挙手一投足がメディアの注目するところとなる最大の理由だ。同時に彼女の目を通じて発見される、魅力的な福島をもっと聞きたいということもあるだろう。

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そうした彼女の熱量には運だけではない人脈も呼び寄せるようだ。福島への移住はまず会津からスタートしたそうだが、その後もたくさんの協力者との出会いがあったそう。なかでも営農への道を開いてくれたのは福島県内外にも知られる老舗旅館『大川荘』の渡邊代表。さらに代表から紹介された、いわきのトマト農園『ワンダーファーム』の元木代表の尽力が大熊町への移住の直接のきっかけとなった。エミリーさんの熱意と数十ページにわたる事業計画を見た元木代表は、すぐさま大熊町を紹介。最後には町の献身的な協力を得て、大川原地区に約1.7ヘクタールの農地を借り受けることができたそうだ。

「本当にたくさんの人を紹介してもらって、助けてもらいました。この農地をお借りできたこともそうですし、今でもトラクターや農機具まで周囲の方々に助けていただいてます」

取材の際にアテンドされた大川原地区の農地は、2019年に避難指示が先行解除されたとはいえ、再整備が必要な状況であることは素人目に見ても明らかだ。それについて尋ねると

「確かに荒れているように見えるかもしれませんね。このあたりの土地は2011年以降、人が入れない状態でしたし。けれども逆の見方をすれば、10年間以上も自然の状態にあって、さらに除染作業などで土壌入れ替えはされているんです。わたしがやってみたいパーマカルチャーにこんなにいい条件の場所はありません」

この場所だからできる、パーマカルチャー

パーマカルチャーについて、いくつかのホームページを開いてみると、「パーマネント(永続性)と農業(アグリカルチャー)、そして文化(カルチャー)を組み合わせた造語で、永続可能な循環型の農業と、その先にある人と自然の関係デザインを指すようだ。エミリーさんは可能な限り自然の状態での営農を考えていて、そのために無肥料無農薬での栽培を目指している。

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木イチゴの苗の育成状態をひとつひとつ確認する。最低限の雑草駆除のみで、あとは自然の力に任せる

「パーマカルチャーへの理解も得られています。ふつうなら無肥料無農薬の営農はその初期段階で害虫の発生などもあって実施が難しいものですが、周囲の農地から離れたこの場所だからやらせていただける、というのも幸運でした」

エミリーさんはここを木イチゴ農園にしようと考えている。それに関しても自分なりの明確なビジョンがあるようだ。

「子供の頃、よく山に自生している木イチゴを摘んで食べたものです。自宅周辺にも自生していて、それらでジャムを作ったりもしたものです。だからパーマカルチャーにもきっと適しているんだと思うんです。とにかくやってみなければわかりませんからね」

圧倒されるのは彼女のもつ直感力と行動力だ。話していると躊躇のようなものがない。正しいか、成功しそうか、リスクはどうか。およそ現代のビジネスにおいて、当たり前に思案されるべきプロセスのようなものが言葉の断片に存在しない。それよりも大熊町の人たちに助けられながら、本人曰く「大熊の山の景色を見て感動しました。こんなに美しい山があるなんて。ここで農園ができることが本当に幸運だと思います」という言葉の通りに、営農に携われるようになったことそのものが喜びのようだ。

観光農園、タイニー・ショップへと広がる夢

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ちなみに「Framboise Jaune」とは黄色い木イチゴという意味。こうして大切に育てている

「木イチゴは品種によっては初夏と秋の年2回収穫が可能なものがあり、ジャムなどに加工してもそのままでも食べることができるという、食品としての柔軟性があります。6次産業化にも適しているので、早く事業化できるといいですね!また、最近、コンテナをいただきました。これを使ってこの農園にタイニー・ショップ(小さなお店)を開いて自社製品や福島の美味しいものを販売できたらいいな、なんて思っています」

人気の赤べこ家族や双葉のだるまちゃんのイラストを描いている時間がさらになくなるのでは?という問いかけには「充実した毎日の中で書きたいという思いが大きくなる。それはとてもいいこと。早速、畑を背景にしたイラストも描きましたよ」

インスタグラムに掲載された新作は、彼女の描くキャラクターたちが総出で畑仕事に精を出している楽しそうな姿だった。

写真はInstagram (https://www.instagram.com/melietmalice/)より
写真はInstagram (https://www.instagram.com/melietmalice/)より

取材:2023年5月

文:前田陽一郎 写真:高柳健 Words:Yoichiro MAEDA Photography:Ken TAKAYANAGI


PROFILE
ブケ・エミリー(ぶけ・えみりい)。フランス・ブルターニュ地方出身。2008年に初来日。日本を知るきっかけは友人、そして漫画『シティ・ハンター』だったそう。2011年から日本に移住、東京・横浜で英語とフランス語の語学教師として勤務していた。福島には2018年夏に最初に訪れたがこの時「美しい自然、優しい人に心が奪われました」という2021年2月に会津若松に移住。現在は大熊町在住。2023年春より1.7haの農地を借り受け、果樹農園をスタート。

H.P. 『メリエマリス』(https://www.melietmalice.com/
Instagram (https://www.instagram.com/melietmalice/