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コミュニティの基本は友だち 誰もがつながれる場所づくり

コミュニティの基本は友だち 誰もがつながれる場所づくり

「なみとも」は、浪江町に移住した若者が町での暮らしを楽しもうと立ち上げた任意団体。情報交換を目的にスタートしたなみともの活動は、いつしか人と人をつなぎ、文化や風習を紡ぐ町のフック的な存在になった。「自分ができることを楽しんでやっていきたい」という小林奈保子さんに、浪江町とともに歩んできたコミュニティ作りについて伺った。

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ゼロになった町から「つながる」ために

浪江町で友だちを作ろう!「なみとも」のはじまりはシンプルだ。

2017年3月に町の一部が避難指示解除となった浪江町。震災以前は2万1000人が暮らしていた町だが、いったんゼロになった町に戻ったのはわずか200人ほど。農業が再開されていないのでカエルの声すら聞こえない、人の営みがほとんど感じられないような状況だった。

「当時は『まち・なみ・まるしぇ』という小さなマルシェが開かれていたのですが、誰かと話したいと思ったら、まるしぇに行って青空の下で世間話をするくらいしか交流できる場所がなかったんです」

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小林さんは、2017年4月に田村市から浪江町役場職員の夫とともに浪江町へ移住した。田村市復興応援隊として活動していた経緯もあり、浪江町へ移り住むことには抵抗はなかったが、当時は「自分から動かないと、だれともつながれない寂しさや不安を感じた」という。

みんなが集まれる拠点が必要だ。何より、自分自身が町の人とつながりたい。そう思った小林さんは、同時期に白河市から移住してきた和泉亘(いずみわたる)さんとともに、2018年任意団体「なみとも」を設立した。

なみともの役割は「つなぎ直す」こと

どんな人が戻っているのかわからない。自分たちのように誰かとつながりたい若者がいるかもしれない。町がリセットされ、点と点になってしまった人たちをつなぎ直すために、「なみとも」は、住人同士が一緒に楽しめるイベントを企画し、友だちができる「場」を作ってきた。

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「“春はリバーラインでお花見するのが毎年の恒例だったんだ”と聞けばお花見を企画したり、町の人の話を聞きながら見よう見まねで郷土料理を作ったりしました。流しそうめんやBBQ、まち歩きなんかもやりましたね。町に若者を呼び込みたいという目的もあったけど、浪江に住む自分たちが楽しく暮らすことが一番だと思って活動を続けてきました」

小林さんは、町が培ってきた文化や風習を少しでも取り戻し受け継いでいくために、積極的に地域のおじいちゃんやおばあちゃんの声にも耳を傾けてきた。

町に新しく来た人たちが孤立することのないよう、昔から続く町のアイデンティティを見失わないよう、自分たちが楽しく暮らしていけるよう、なみともは、「人」と「人」、「人」と「町」をつないできたのだ。

協力し合うための「なみえ会議」

活動をはじめてから現在まで、定期的に続けている活動の1つが「なみえ会議」だ。

なみえ会議では、町内外から町に関わって活動する個人、団体、企業、行政など、地域を盛り上げたい、暮らしをよくしたいと考える人たちが集まり、活動内容の共有や情報交換を行っている。

「なみえ会議をはじめたきっかけは『回覧板もなく、町の動きがわからない』という町の人の声でした。新しい人や団体がどんどん町に入ってきて支援活動やイベントを行ってくれるけど、どこで何をやっているかわからなかったり、同じようなイベントがかぶってしまったりすることがあったんです。そこで活動する側に『今の浪江を知る場』を設けて、協力し合えるネットワーク作りをしようと考えました」

会議は月に1回(現在は隔月1回)。会場には、毎回席が足りなくなるほど人が集まった。当初は福祉関係など生活に関するテーマが多かったが、最近では日産やUR都市機構などの企業も参画し、さまざまなテーマで会議が繰り広げられるそうだ。

町のフェーズとともにニーズも変わり続ける浪江町で、「なみえ会議」は、町を知るための情報交換の場として重要な役割を果たしている。

めまぐるしく変化する町で

「浪江町はとにかく動きが早いので、ボーっとしていたら情報を取り逃してしまいます」

小林さんがこう話すほど、町はめまぐるしく変化している。

避難指示解除から6年。人口は約2,000人に増え、2023年4月には福島県内や世界の課題解決を目指す研究開発拠点「福島国際研究教育機構 (F-REI) 」が設立された。JR浪江駅周辺では再開発計画も進んでおり、住宅や商業施設を段階的に整備する予定だ。

なみとも結成当時には想像もできなかったほど急速に町が変化していく一方で、「取りこぼしてしまっているものがあるのではないか」と小林さんは不安を口にする。

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「地域活動を行うプレイヤーの存在が目立つ分、そちらにばかり目が行きがちだけど、ただここで暮らす普通の人たちの方が圧倒的に多いんです。そういう人たちを置いてけぼりにして、前に進んでいくのは絶対に良くないと思っています。だからこそ、なみとものような場が必要なのかもしれません」

ブレない「浪江で楽しく暮らす」軸

現在、「なみとも」の活動は主に補助金や寄付を活用して行っているが、今後どう活動を持続していくかという課題にも直面しているという。

「『活動の幅を広げるために法人にしたほうがいいのでは?』とよく言われるんですけど、全然ピンと来ないんです。『浪江で楽しく暮らそう』というビジョンで、自分たちの暮らしを楽しむためになみともを作ったので、やっぱりそこをはみ出すようなことはできないなと思っています」

とはいえ、移住サポーターやコーディネートなど、浪江町でのつながりを活かした地域活動はなみともが担っている。なみともを必要とする場は多いのだ。

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現在、小林さんはいわき・双葉郡の子育て応援コミュニティ「cotohana(コトハナ)」の共同代表もつとめるなど、精力的に個人の活動にも行っている。小林さんの見つめる未来は、子どもたちが「この町で育って楽しかった!」と思ってもらえる地域に自分たちの手でしていくこと。そのために、しなやかに楽しんで、自分にできることをやっていくことがモットーだ。

楽しいことはみんなで分かち合う、困っている人がいたら手を差し伸べる、町に必要なものはみんなで作っていく。友だちの輪から広がるつながりは、この町を明るく照らしてくれるはずだ。

取材:2023年6月

文:奥村サヤ 写真:高柳健  Words:Saya OKUMURA   Photography:Ken TAKAYANAGI


PROFILE
小林奈保子(こばやしなおこ)さん。なみとも代表。田村市生まれ。学生時代からまちづくりに関わり、卒業後は福島県内のNPO団体で復興支援員に従事。2017年3月末、東京電力福島第一原発事故による避難指示の一部解除に合わせて、夫とともに浪江町へ移住。同じ時期に浪江町に移住した和泉亘さんと2人で、浪江町の暮らしを楽しもうと任意団体「なみとも」を設立。いわき・双葉郡の子育て応援コミュニティ「cotohana(コトハナ)」の共同代表もつとめる。

任意団体 なみとも
HP:https://www.namitomo.org/
Facebook:https://www.facebook.com/namitomo.namie