【リポート】これからを見据える生産者たちの挑戦は、“つながること”
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3月18日、浜通りの食と酒の魅力を発信するイベント「HAMASAKE-DINING(ハマサケダイニング)」が行われた。
東京で桜の開花宣言が出された翌日。この日の福島は春の雪が舞い、会場を急きょ田村市の「グリーンパーク都路(みやこじ)」から旧石森小学校を活用した複合型テレワークセンター「テラス石森」に変更。アウトドアダイニングを室内ダイニングに切り替えて開催した。
関東から20名の食に関するジャーナリストやメディアが参加し、会場は華やかな雰囲気に包まれた。参加者たちは、生産者と一緒に料理を囲んで語り合い、食材にかける想いに触れ、浜通りの「食」の魅力と可能性を大いに感じる時間を過ごした。
生産者の思いに触れる「HAMASAKE-DINING」
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HAMA-SAKE DININGは、「酒と食を通して浜通りの今を伝え、生産者の“挑戦”を振る舞うダイニング」をコンセプトに、浜通りの交流人口拡大の推進を目的に初開催。
地元のフレンチシェフが浜通りの食材をもとにコース料理を提供し、参加者たちはクラフトビールや日本酒などの地酒とともに生産者と語り合いながら食事を楽しんだ。
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今回、食材を提供した生産者は、いわき市でトマトの6次産業化に取り組む「ワンダーファーム」の元木寛さん、相馬市で相馬ミルキーエッグを養鶏する「大野村農園」の菊地将兵さん、田村市でクラフトビールを製造・販売する「ホップジャパン」の本間誠さん、葛尾村で農業体験や6次産業化などを展開する「葛力創造舎」の下枝浩徳さん、南相馬市で自由な発想の酒づくりに取り組む「haccoba -Craft Sake Brewery-」の佐藤みずきさんの6名。葛尾村でブランド羊肉を畜産する「牛屋」の吉田健さんは食材のみを提供した。
それぞれの素材は美しい一皿となり、参加者たちを魅了したようだ。
大野村農園の日本一やさしい卵「相馬ミルキーエッグ」
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コース料理の一皿目は、大野村農園の「相馬ミルキーエッグ」を使ったキッシュ。いわき産シラウオと一緒に焼き込んだキッシュは、サクサクのパイ生地とふんわりとした口どけのアパレイユ、自家製タルタルソースの酸味がマッチする一皿。
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大野村農園代表の菊地将兵さんは、震災後、風評被害が色濃い相馬市で一人で農業をはじめたパオニア。そんな菊地さんが「福島から最高に良いものを生み出したい」という強い想いで作ったのが自然卵養鶏法の卵「相馬ミルキーエッグ」だ。
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1パック830円の卵は、今や全国から注文が寄せられ数ヶ月先まで予約で埋まっている。菊地さんは「日本一安全で、自然にも動物にも人にもやさしい卵」だと自信を込めて語る。キッシュを頬張ると、ふんわりやさしい甘さが口いっぱいに広がった。
ホップジャパンのクラフトビール「桜SAKE Lagar」
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料理を引き立てるのは、福島の「桜」を使用した春を感じさせるクラフトビール「SAKURA」。
田村市大越町で収穫した桜の花びらを塩漬けにして日本酒酵母を融合したラガービールは、ほんのり桜の香りが鼻を抜け、白ブドウのようなフルーティーで爽快な後味が特徴だ。
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このビールを手掛けるのは、田村市でクラフトビール醸造所「ホップガーデンブルワリー」を運営する「ホップジャパン」。代表の本間誠さんは、持続可能な社会を目指し、脱サラしてブルワリーを立ち上げたバイタリティ溢れる人物だ。
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ホップジャパンでは田村市産のホップを使用して、すでに10種類以上のクラフトビールを販売し、県内外から高い評価を得ている。
本間さんは「ビール製造から出る廃棄物をリサイクルすることで資源を無駄にしない循環型モデル『ゼロ次化』を目指していきたい」と語った。今後はヤギの飼育や養蜂も行っていくという。ローカルサスティナビリティに挑むホップジャパンの取り組みにも、期待していきたい。
ワンダーファームの「サンシャイントマト」
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いわき市でトマトの通年栽培をする「ワンダーファーム」のブランドトマト「サンシャイントマト」は、色鮮やかな前菜になった。トマトの中には常磐ものヒラメのコンフィが詰められ、濃厚で甘酸っぱいトマトと相性抜群。ガスパチョソースがアクセントになった爽やかな一皿だ。
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農と食の魅力をさまざまな形で体験できるワンダーファーム代表の元木寛さんは、農業の可能性を広げるための「場」作りにも意欲的に取り組んでいる。今回のイベントプロデュースを手掛けたのも元木さんだ。シェフとともに浜通りの生産者を一軒一軒訪ねてまわり、生産現場を見て、食べて、素材を吟味し、コース料理メニューを考案した。
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ワンダーファームはトマト栽培だけでなく、地域のヒト・モノ・コトをつなげるハブのような場でもある。「食を起点になにができるか、みんなで考えていきたい」と話す元木さんは、常に農業の未来を見据えている。
葛尾村産米を使った日本酒「でれすけ」
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「葛力創造舎」が手掛ける葛尾村産米を100%使った純米吟醸酒「でれすけ」は宴に彩りを添えた。
「でれすけ」とは福島の方言で「ダメなやつ」という意味なのだそう。代表の下枝さんは「集まった人同士が酒を酌み交わして、『でれすけ』と言い合いながら笑い、家族のように仲良くなってほしいという想いを込めてこの酒を造りました」と語った。
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「酒を呑み交わすシチュエーションを生み出したい」という下枝さんは、つながりをデザインする人。この日もふるさとへの想いを込めた「葛尾川」を披露し、会場を大いに盛り上げてくれた。
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農村集落ならではの文化が残る葛尾村の魅力に触れた人は、何度も足を運びたくなるという。でれすけも葛尾村も人を魅了する力を持っているようだ。下枝さんの唄を聴きながら、葛尾村への興味が膨らんだ。
葛尾村のブランド羊肉「メルティーシープ」
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メインは、葛尾村のブランド羊肉「メルティーシープ」。和牛の畜産農家だった吉田健さんが国産の美味しいジンギスカンを食べたことをきっかけに、新たな村の魅力とすべく手がけたのがこのブランド羊肉だという。
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メルティーシープは、とろける脂と柔らかい赤身が特徴で、都内の大手ジンギスカン専門店やミシュランガイドの三ツ星レストランでも使用されているのだとか。この日も、この羊肉を目的に来たという参加者もいるほど。「メルティーシープ」というブランド名が全国へ響き渡る日も、そう遠くはなさそうだ。
垣根を超えた自由な酒。haccobaの「はなうたホップス」
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南相馬市小高区の酒蔵「haccoba -Craft Sake Brewery-」(以下haccoba)は、「酒づくりをもっと自由に」というコンセプトで、ジャンルの垣根を超えたお酒づくりを追及している。
「はなうたホップス」は、東北に伝わるどぶろく製法 "花酛"(はなもと)と、ビールの製法ドライホップをかけ合わせ、お米のクリアな甘みとホップの爽やかな香りを表現。柑橘を感じる爽やかな香りとお米の甘み、ホップの苦味のセッションが絶妙だ。
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haccobaのお酒は今や、ネット販売すると即日SOLDOUTの人気ぶり。ブランドディレクターの佐藤みずきさんは、「自由な発想で作るお酒も作り手も増やしていきたい」と展望を語ってくれた。
今後はhaccobaのお酒をもっと多くの人へ届けるため、2023年秋に浪江町に醸造所をオープンする予定だという。浜通りで育まれるhaccobaブランドのファンは、ますます広がりを見せそうだ。
浜通りの生産者たちの可能性は、無限大
料理を食べ終え、参加者たちは一様に満足げな表情を浮かべた。
参加者に感想を聞いてみると、「どの料理も素晴らしく、福島の食の魅力を大いに感じることができた。今度は実際に生産現場に足を運び、その過程を見て料理を味わう体験もしてみたい」「どんなによい素材があっても料理としてきちんと提供しないと付加価値は上がらない。このように素材や人と出会える機会は貴重だった」と話した。
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![浜通りの食と酒の魅力を発信するイベント「HAMASAKE-DINING(ハマサケダイニング)」](https://cdn.clipkit.co/tenants/1351/item_images/images/000/000/879/large/e4a1aba7-ea20-4c49-8048-93c60294b50b.jpg?1689936572)
生産者も「丹精込めて育てた食材を知ってもらうきっかけになった」「ほかの生産者たちの熱い想いを聞いて、刺激になった。さらにがんばっていきたい」と目を輝かせた。
浜通りは豊富な食材とともに、人の魅力にも溢れているのではと感じることのできた時間だった。浜通りのこれからを見据える生産者たちがつながることで、今後、福島の食の可能性はさらに拡大していくのではないだろうか。
主催者のひとりの元木さんは、「人と人、人と食、それぞれの関係性をつないで、これからも皆さんとサスティナブルな関係を築いていきたい」とイベントを締めくくった。浜通りの食と人を好きになって、これからも足を運んでほしい。
取材:2023年3月
文:奥村サヤ 写真:及川裕喜 Words:Saya OKUMURA Photography:Hiroki OIKAWA