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『あつまれ どうぶつの森』を リアルでやっている感覚です

『あつまれ どうぶつの森』を リアルでやっている感覚です

図図倉庫と書いて「ズットソーコ」と読む。福島県飯舘村に2022年秋オープンした施設だ。ここがいったい「何」なのか、一言で説明するのはかなり難しい。ウェブサイトには「環境づくりの自由研究秘密基地」とあるが、そう聞いてますますわからなくなる人も多いのではないか。しかし、ひとたびその扉を開ければ、ここがなにか大きな可能性を秘めた場所であることに気づくはずだ。運営する合同会社MARBLiNG(マーブリング)共同代表の松本奈々さんと矢野淳さんに話を聞いた。

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いつ完成するのかと聞かれますが、完成形はないんです

飯舘村を横断する県道12号を東へ走ると、道の駅の少し先に真新しいカラフルな大看板が見えてくる。その横の巨大な建物屋上に残る、色あせた旧ホームセンターのロゴ看板と対照的だ。

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システムエンジニアの経歴を持つ松本さんと大学で建築を学んだ矢野さん。ひょんなことから出会った二人が、東日本大震災・原発事故で閉店となったこのホームセンターの店舗・倉庫を借り受け、泥だらけの床を剥がすところから改装を始めたのは、2021年春のことだった。約1,000平米という大空間を、福島県大玉村在住の建築家、佐藤研吾氏を始め県内外の多くの協力者の支援を得て、自分たちで少しずつリノベーション。翌年11月に図図倉庫としてプレオープンしたという。

ではグランドオープンはいつですかと聞くと、二人は顔を見合わせた。「いつ完成するのかとよく聞かれますけど、完成形はないんです」(松本さん)。

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コワーキングスペース、カフェ、実験室にアトリエ…

あらためて室内を見渡す。東西に長い建物は中の仕切りがほとんどない。西端のスペースは郡山市の電気工事会社が借り受け、ワサビの水耕栽培の実験中だという。反対の東端の一角には農業用の鉄パイプとオリジナルのもみ殻製断熱材で覆われた空間があり、そこが会員制コワーキングスペースになっているそうだ。その手前に置かれたかわいらしいトレーラーカフェには、一ひねりの効いたドリンクメニューが並んでいる。

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それ以外の空間はフリースペース。大人数でなければ予約不要、誰でもふらりと立ち寄って読書や休憩などしていいという。置かれている物はほぼすべてリユース品で、廃校になった小学校の備品、退去後の仮設住宅から出た廃材、地域の人たちが持ち寄った不要品などなど。かと思えば、植物のひょうたんに蓋を付けたひょうたんペットボトルや、地元の草花を使ったアート作品がなにげなく展示されていたりする。

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建物の外にも高さ2メートルを超す木製のオブジェが佇んでいた。

「彫刻家の方がここで1週間かけて公開彫刻するプロジェクトだったんですが、村民から提供してもらった樹齢120年のケヤキが大きすぎて、1週間では無理かも、となったんです。そしたら村のおじいちゃんたちがチェーンソー持って集まってくれて。最初はなんだこれ?という感じだったのが数日後にはアーティストといっしょに作品づくりしてました(笑)」(矢野さん)。

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アーティストと村民が協働で制作した「地域の実」という作品。

まるで秘密基地のような

少し整理しよう。図図倉庫ではどんな事業が営まれているのか。

ひとつはスペース貸出しだ。イベント向けレンタルのほか、常設テナントとしては前述のワサビ栽培など。コワーキングは地元企業の法人契約もあり、県内外の大学の活動拠点にもなっている。コワーキングの奥にはレーザーカッターなど本格機材をそろえたシェアアトリエもまもなくオープン予定とのこと。手ぶらで来てもものづくりが楽しめる場所となり、「村に若手アーティストを呼ぶきっかけにもなる」(矢野さん)構想だという。

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コワーキングスペース

また、トレーラーカフェは現在週4日午後に営業しており、ドリンク以外にも最近村に移住した若者が作る焼き菓子なども販売。イベント出店も行う。

これから本格化するのが、図図倉庫を起点として飯舘村を巡るツアー事業だ。現在はショート・1日・宿泊つきと3種のツアーをモニター価格で提供中で、2024年中の商品化を目指している。さらには、以前のホームセンターで扱っていた種や肥料などを販売するガーデンショップの計画もあるという。

こうして写真を並べるだけでわかるとおり、図図倉庫のビジュアルはまさに「秘密基地」のように魅力的だ。廃材リユースやDIYリノベーションも、いわば時流に乗ったと言えるかもしれない。しかし彼女らの志は、もっと深いところに根差している。キーワードは「環境」と「循環」だ。

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環境と循環をみんなで考え、実行に移す場所へ

原発事故で6年間の全村避難を強いられた飯舘村。その将来を考えるとき、放射性物質で汚染された環境と破壊されたコミュニティの再生という問題は避けて通れない。震災直後からそれらの課題に向き合ってきたのが、村内外の有志が集まって立ち上げたNPO法人「ふくしま再生の会」だ。研究者・科学者たちと村民が協働し、自らの手で放射線量の測定、除染方法の実験、農業再生、避難村民のケアなど地道な調査・実験を重ね、そのデータを地域再生に生かしてきた。

そのNPOの代表が矢野さんの父親だ。東京出身の矢野さんが高校生のころから飯舘を訪れ、村民と交わるようになったのは、父親のこの活動がきっかけだった。図図倉庫の中には、放射性物質とは何かをわかりやすく説明するコーナーがあるが、これは「ふくしま再生の会」が設営しているもの。現在MARBLiNGが行っているモニターツアーも、同会が長年実施してきた視察・交流ツアーが下敷きになっているという。

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放射線を説明するコーナーには放射線を可視化できる「霧箱」という装置もある。

一方の松本さんも移住者だが、東京のIT企業を辞めてから矢野さんと共に会社を立ち上げるまでの2年間、飯舘村の地域おこし協力隊として村内の人間関係を築いてきている。図図倉庫は若い女性二人による真新しい試みとして注目されるが、そこには長く培ってきた地域の信頼と人脈の裏打ちがあるのだ。だからこそ図図倉庫はけっして若者・ヨソモノだけに閉じておらず、前述の彫刻プロジェクトのように「村の人たちにとっても『関わりしろ』のある場所」(矢野さん)となっているのだろう。

『あつまれ どうぶつの森』をリアルでやっている感覚

そしていま、図図倉庫は「福島の課題は世界の課題」という認識のもと、「ふくしま再生の会」の使命の一部を引き継ぐかたちで地域に人や環境の新しい循環を生み出そうとしている。

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図図倉庫の空間づくりのイラスト。たくさん描き込まれた矢印が「つながり・循環」を表わしている。

とはいえ、松本さんにも矢野さんにも気負いは感じられない。飯舘出身ではない二人がどう出会い、今に至ったのか。その物語はここでは割愛するが、二人はおそらく、ここで「自分のやりたいことをやっている」だけなのだ。いまの飯舘村に惹かれてやってくる人たちもみな、復興や支援といった語彙の外にいるらしい。

「ゲーム世代の若者は、村をゲームフィールドのようにとらえている人が多いかも。自分たちで木を切るところから始めるみたいな、『あつまれ どうぶつの森』をリアルでやっている感覚というか(笑)」(矢野さん)

飯舘という小さなゲームフィールドは自分が手をかけることでどんどん変わっていく。その変化を楽しんでいるというのだ。

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「都会だと既存の巨大なシステムの中で生きるしかない。でもここに来れば、エネルギーは自分で生み出せること、食べ物は自分たちで作れることがわかる。そういう『生きる力』を持った人たちがそろっていて、本当の意味で安心安全な環境だと思います。ここは、そういう生き方に興味のある人に刺さるのでは」(矢野さん)

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「都会暮らしに漠然とした不安を感じる人は多いはず。SE時代の私もそうでした。このまま10年20年後も同じことをやっていけるのか。それで大丈夫なのかと。そもそも食べ物ってどこからくるのか、など日常にちょっとした疑問を感じたら、勉強しなきゃとか難しく考えず、まずはここに来てみたらどうかなと思います」(松本さん)

完成形のない図図倉庫。おそらく、この「秘密基地」自体が自然の循環の中にある有機体のように変わり続けるに違いない。その過程でさらに多種多様なチャレンジャーがこの場所に引き寄せられていくことだろう。

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2023年7月取材

文:中川雅美(良文工房)  写真:及川裕喜 Words:Masami NAKAGAWA Photography:Hiroki OIKAWA


PROFILE
松本奈々(まつもと・なな)さん 合同会社MARBLiNG共同代表
福島県出身。大学時代、復興支援活動を通じて飯舘村との関わりがスタート。卒業後、東京都内のIT企業でシステムエンジニアを経験した後、2019年4月に飯舘村地域おこし協力隊に着任。空き施設の利活用プロジェクトを中心に活動。2021年に矢野淳とともに合同会社MARBLiNGを設立し、「図図倉庫(ズットソーコ)」を運営している。


PROFILE
矢野淳(やの・じゅん)さん 合同会社MARBLiNG共同代表
東京都出身。2011年に認定NPO法人ふくしま再生の会を飯舘村村⺠と協働で立ち上げた父・田尾陽一の影響で高校生の頃から飯舘村に関わり続ける。2020年、東京藝術大学建築科卒業。現在は飯舘村と東京の二拠点で活動し、村の宿泊施設『風と土の家』の運営にも携わりながら、図図倉庫の企画運営・空間プロデュースをしている。


合同会社MARBLiNG/図図倉庫
住所▶福島県相馬郡飯舘村深谷二本木前5-1
営業時間はインスタグラムをご覧ください。
ウェブサイト▶ https://www.zuttosoko.com/zuttosoko/
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