場 - Community -

福島の可能性を最大化する場所 ワンダーファームとは

福島の可能性を最大化する場所 ワンダーファームとは

福島県いわき市民にとってはもちろん、近隣県にまでその名前がしられるトマト農園がある。6次産業化に早くから舵を切り通販事業にも積極的だ。ただしそこは農園経営だけに終わらない。常に人が集い、情報を発信し続けている“希望の農園”が目指すものとは。

Share

福島の入り口、いわきで3000人を集客する

元木寛(もときひろし)さん ワンダーファーム代表取締役社長

オランダ式の巨大なハウスで生産される多品種のトマトは年間を通じてトマト狩りを楽しむことができ、美味しいと評判だ。広大な敷地には『森のマルシェ』と名付けられたトマトを中心とした地産食材の加工食品販売エリアに、石窯によるピッツァをいただける本格イタリアンレスラン『クロスワンダーダイニング』、それに全天候型のBBQエリア、ドッグランにキャンプサイト、そして敷地奥にはトマトの加工工場までも備えている。その風景はさながら巨大なトマトのテーマパークそのものだが、そこには商業的な“ねらい”以上に人が集まる場所作りとしての意図を強く感じる。

定期的に開催している『食』をテーマにしたイベントでは、元々田んぼしかなかったいわきの北の外れの農村地域でありながら、毎回約3,000人集客する。およそマンスリーで大小何かしらのイベントが組まれるが、そのどれもが盛況と漏れ聞こえる。代表の元木さんは「東北の玄関口としての役割は大きい」と語る。

元木寛(もときひろし)さん ワンダーファーム代表取締役社長
元木寛(もときひろし)さん ワンダーファーム代表取締役社長
元木寛(もときひろし)さん ワンダーファーム代表取締役社長
本文にあるように、広大な敷地にはダイニングから加工工場までを有する

知識も経験もなく、家族に説得されて

もともと農業に接点があったわけではない。サラリーマン家庭に育ち、JR東日本に就職。東京勤務となったときには、まさか、自分が地元に戻って農業をやることになるとは思いもよらなかった。きっかけはいわき市で代々米作りを中心に農業を営んできた奥様の実家が、トマトの大規模栽培を手がけることになり、法人化のための後継者になってほしいと義父から打診されたことによる。悩んだ挙句に会社を辞めて2002年、福島に帰ってきた。

「結局、福島が好きなんですね。東京勤務の頃もずっとサーフィンのために週末は行き来していましたし。それでも自分が農業をやるとは思っていませんでしたけどね」

当然、農業の法人化に、トマトの大規模栽培というビジョンが最初からうまく行ったわけではない。当初は経営的にも厳しく、やっと計画に近いレベルで収穫できるようになったのは4~5年経ってからだ。いよいよこれから、というときに東日本大震災に見舞われた。幸いにして直接的な被害は免れたが、風評被害は避けようがなかった。

元木寛(もときひろし)さん ワンダーファーム代表取締役社長
元木寛(もときひろし)さん ワンダーファーム代表取締役社長
オランダ式のハウス栽培は狭いスペースで品質の高いトマトを提供できる

農業の6次産業化と、地元にどうやったら貢献できるか

「あの水素爆発以降、急速に“見えない恐怖”のようなものが日本を支配しはじめましたよね。直感的に安全の証明が必要になると思いました。おそらく日本で一番最初にスクリーニング検査を受けた農家はウチだと思いますよ。今でも忘れない3月20日です」

幸いなことに測定検査は環境放射能をも下回る数字だった。にもかかわらず収穫物の大半は捨てざるを得なかった。安全は保証されているのに買ってもらえなかったからだ。

「避難所にトマトや野菜を運ぶとみなさん喜んでいただけましたね。自分たちとしてはむしろ手に取っていただいてむしろありがたい気持ちだったんですがね」

震災から数年経っても、その味の記憶はその時だけで終わらずにその後も「あのときの味を求めてくるお客さんは跡を立たなかったそう。「そこからですかね、新しい兆しが見えたのは」。さらに、当時は通常の出荷先やルートも分断されてしまっていたために独自に見よう見まねで通販をはじめると、そこでも徐々に売れるようになり「現在の基礎ができていきました」。

農業の可能性を若い世代に示したい

「6次産業化として認められやすいレストランや直売所であれば、私たちのトマトだけでなく、地域の農業にも貢献できるのではないかと考えて、ワンダーファームの基本構想ができてきました。とにかく無我夢中でした」

2013年4月、株式会社ワンダーファームを設立した。会社設立から3年経った2016年春に、トマトほか食品などの直売所『森のマルシェ』、ビュッフェ形式(当時)のレストラン『森のキッチン』、加工工場『森のあぐり工房』を次々と完成させた。作り、売り、食べ、そして人が集う、という現在のワンダーファームの原型がスタートする。

 (318)
元木寛(もときひろし)さん ワンダーファーム代表取締役社長
元木寛(もときひろし)さん ワンダーファーム代表取締役社長
元木寛(もときひろし)さん ワンダーファーム代表取締役社長
元木寛(もときひろし)さん ワンダーファーム代表取締役社長
作り、販売し、加工する。トマトのアウトソーシングまでを考えたのが「ワンダーファーム」だ。敷地奥に見えるのがジュースなど二次加工場「森のあぐり工房」

ところがそこに続くのは2019年10月の台風19号、2020年から続くコロナ禍だ。むしろ平時での農家経験の方が短いほどに荒波を乗り越えてきた。

「まったく順風満帆ではないですね。ときには、なんでこんなもの作っちゃったんだろ、って思ったりもしますから。実際のところ、ビジネスの効率だけを考えたら、トマト栽培だけに資本を集中した方がいいですし(笑)。まあ、でも慣れましたね。あまりにもいろんなことがあって、それだけに強くなれましたから。それよりも、僕らの世代が次の世代を作っていかなきゃいけないという気持ちの方が強いですね。そのためには農業のイメージも変えなきゃいけない」

ダイニングアウトから芸術祭へ。まだまだやりたいことばかり

元木寛(もときひろし)さん ワンダーファーム代表取締役社長

いまでは地域の生産農家やレストラン30〜50が参加し、ミュージシャンのライブとも融合させたイベント『ワンダーマルシェ』を2カ月に1回のペースで開催。さらに福島の食材を知ってもらうために、有名シェフを招聘し、東京など都市圏からフードジャーナリストらに声をかけ、単なるレストランではない、地方と都会をつなぐ一つの「場」としての「ダイニングアウト」も実施している。

「農業のもっているイメージを、ただ食材を作っているだけのイメージから解放してやりたいんです。そうすれば若い世代がきっと関心をもってくれるんじゃないかと。イベントもダイニングアウトも、福島の可能性を地元の人たちとも共有するためのものですから」

そのうえでさらに夢は広がる。

「すでに具体的なレベルでスポーツサイクルのイベントにもチャレンジします。どういう形になるかはこれからですが。さらにアートイベントのアイデアももちあがっています。芸術祭をやろうじゃないかと。じつはダイニングアウトはその布石でもあります」

取材:2023年5月

文:前田陽一郎 写真:高柳健 Words:Yoichiro MAEDA Photography:Ken TAKAYANAGI


PROFILE
元木寛(もときひろし)さん ワンダーファーム代表取締役社長
双葉郡大熊町生まれ。サラリーマン家庭に育ち、JR東日本に勤務。2002年いわき市に移住、義父と共に農業法人を立ち上げる。東日本大震災後の2013年に株式会社ワンダーファーム設立。同年に「農林水産祭」天皇杯を受賞。最先端農法としてのトマトのオランダ式ハウス栽培の傍ら、食の体験型テーマパーク、ワンダーファームを設立。ここを拠点に、農作物の付加価値向上、若手の育成、地域の活性化に取り組む。

Instagram(ワンダーファーム公式)▶︎ https://www.instagram.com/wonderfarmiwaki/
Facebook(ワンダーファーム公式)▶︎ https://www.facebook.com/wonderfarm/
Twitter (ワンダーファーム公式)▶︎https://twitter.com/wonderfarmiwaki
H.P.(ワンダーファーム) ▶︎ http://www.wonder-farm.co.jp


ワンダーファーム
住所 〒979-0215 福島県いわき市四倉町中島広町1
営業時間 9:30〜20:00(詳しい営業時間は要確認)
電話 0246-85-5105